バイバイ！ アクガルド

バイバイ！　今まで楽しかったよ！

いつ生まれたのだろう、もう大分昔のことでよく覚えていないけど
生を受けたときは善を志していたんだ。

ノカン村で温かいふれあいを知り、50を過ぎたあたりで尊敬できる先輩も見つけた。
彼らのように強くなることを夢見て、ろくなスキルも無いままにサラセンダンジョンに篭り、
真っ青な潜入服を着て強くなった自分を試すために故郷へと帰り、海賊王にも挑戦してみた。
数々の試練を乗り越えて身も心も、そして魂も研ぎ澄まし憧れの善神に仕える身となった・・・はずだった。

だけど、突然にやってきた封印は長い眠りをもたらして
二度と日の目を見ることなど無いだろうと、役目を終えたのだろうと運命に従った。


でも・・・そのときもやはり突然に訪れた。　決して開かれるはずのない運命の扉は再びに開かれて差し込んだ光。
封印から抜け出した喜びを全身に浴びて飛び出した世界で思わず自身を疑ったさ。






まるで似ても似つかない翼があったんだから。
善神の加護を受けた翼は眠っている間に一体どこへ行ってしまったのだろう。
とにかくよく分からないけど、目が覚めたときには
悪神を崇拝する赤き翼の使途になっていたんだ。

もう元の道には戻れない。　再び1から歩き始めた私に選択肢など用意されてはいなかった。
あの日から悪の道をひたすらに歩んだ。　かつての同士の血で手を染めて
これが自らの信仰、生きる道なのだと言い聞かせて過去を断ち切った。
1つ、また一つ。　かつての自分が生きた記憶の欠片が消えていくことに安堵にも似た快感を覚えながら。



時は経ち・・・気付けば数いる悪の信奉者の中でもナンバー3の地位を手に入れて、
そこらじゅうに溢れる偽善者達に吐き気すら覚えるようになっていた。
右を見れば醜い争いが互いを潰しあい、
それを嫌って左を向けば汚い野心が目を光らせて。
天を仰いでも見えるのは曇天に沈む灰色の空ばかり。
それでも声高く善を訴える者達に果たして何が出来ただろう。
これなら、下らない感情など捨てて自由気ままに生きたほうがいいじゃないか。
そうやって外を向けばなんと楽なことか。



― 本当にそれでいいの？

突然に脳裏に浮かぶ声は、間違いなく自らのもの。
善を捨てて悪に走ることで消し去ったはずの自らの声だった。
かつての自分を痛めに痛めつけて、何も感じなくなっても湧き上がっていた対象を知らぬ怒りが、
今声となって聞こえてきた。　どんなに悪に染まっても、自分に嘘をついたままでいるのは辛い。
やっと見つけた思いは、自然と手にあるものを握らせていた。





代償は大きい。　仲間も必死に思いとどまらせようとしてくれた。
だけど、かつてを思い出してしまった今、もうガマンできなかったんだ。
決意しても、それでもその瞬間はなかなかゴーサインを降ろせなかった。
あの凍りついた時間の中で覚えた恐怖はなんだったのだろう。
億と稼いできた悪の功徳を一瞬にして失うことへのものか、それとも
ゴミのように捨てて血を啜った相手の下へ戻ることに対するものか。
それは今でも分からない・・・だけど、新たな運命の扉は既に開かれた。




どうやら長い長い夢を見ていたみたいだ・・・。
喪失感はまるで無い。　むしろこれは大きなプラスだ。
ようやくに、元の場所へ戻ってきたのだから。　かつての自分が探していたものを見つける為のスタートラインへ。
何を求めていたのかは、きっとこれから先で巡り合うもの達が教えてくれるはずだ。





善悪81からの善悪逆転なんて前代未聞だって？
HAHAHA、後悔などまるでしていないよ！　それどころかなんだかとっても晴れやかだよ！
見るに堪えない太もも服とオサラバできて善として再び光の元へ戻ってこれたのだから！







　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　コメントする？[6]